札幌が舞台となってる小説がいくつかあるので、その中でもおもしろいと評判で、若い人におすすめの10冊紹介します。新しいものから生まれる前に書かれたものまでありますが、札幌に住んでる人であれば、読むともっと札幌を好きになるかも!
『アリハラせんぱいと救えないやっかいさん』/ 阿川せんり
KADOKAWA(2017年) 青春小説
特別な自分の演出のために変人ぶろうとする、偽りの変人。それが、“やっかいさん”。北大2年コドリは、ある理由から“真の変人”を追い求めている。だがそれゆえ、やっかいさんから好かれがち。ある日、心理学系コース4年・アリハラと「とんでもない出会い方」をする。アリハラはコドリとやっかいさんらの関係に興味津々…かきまわし、あらゆるイベントを起こしたがる。「アリハラこそ真の変人なのです」と希望を持ったコドリは、あえて振り回されるうち、封印していた自分の気持ちと向き合うようになるが、アリハラには別の目的があった…。あなたは「特別な人」ですか?「やっかいさん」ですか?読み終えたあとは自由になれる、今までにないこじらせ系青春小説!
独特の感性を持った人たちが集まると、こうにも話がこじれるのか 自分自身の自意識がわからなくなるというか開放されるというか・・・ 前作もそうでしたが目の離せない作家さんです
個性のかたまり達の化学反応がこの小説ではおきています。ある場面なのですが、私は、主人公がクズすぎて笑えませんでした。主人公はいじめの元凶、発端にもかかわらず…いじめられた側のことをなにも思えないほど自分の思考に絡まっている状態。自己中心の極みのように感じました。このような主人公に終始感情移入できるはずもなく読了。また、特に気になったのが最後の場面、こんなに呆気にとられ、置いてきぼりをくらったのは今までの読書体験の中で初めてです。
ただこの本は、自分のアイデンティティだと思っていたものが完全に否定された時、自分に何が残るかを問いてくる非常に濃い内容ですのでぜひ。
『花工房ノンノの秘密 死をささやく青い花』/ 深津十一
宝島社文庫(2014年) ミステリー
札幌の小さな花屋「花工房ノンノ」―ノンノはアイヌ語で花―で働く山下純平は、幼い頃に巻き込まれたガス中毒事故で母親を亡くしている。その際、純平が臨死体験で見た景色を、同僚の細井がある動画サイトで実際に見たことがあるという。それは青から赤に変化していく花畑の様子だった。二人はその動画サイトを検索するが、すでに削除されていて―。不思議な花をめぐるミステリー。
読み始めると一気に読んでしまう。
コレクターもそうだったけれど、石や花の豆知識だけでどんどん読み進められる面白さ。
一方でたくさんの伏線をひとつひとつ読み解く面白さもあった。
まずは“花”というモチーフと「花屋」という舞台に惹かれました。
文章も端正で読み進めやすい。
次から次と積みあがっていく謎。しかしいつまで経っても回収されず積み上げられ放置される謎も、“花”がモチーフなのでどこか心地よい。謎の回収は作者様の腕に委ねて心地よく謎を読み進め積み上げ続けていきました。
そんな、どこか読者(私です)の頭の中のお花畑を、目を覚ますようなラストの怒涛の謎とき。中盤まではどこか「“謎”付き、“花”付き」の青春小説のように読んでいましたが、最終章の急転直下の展開に、私は寝不足にめげず一気に一晩で読みあげてしまいました。
巻末に参考文献が載っていますが、とても掲載されている本だけではこれだけのものは書けないでしょう。
ひょっとして作者の専門分野か長年温めてきた構想なのかな、と穿った見方をしたくなりました。
作者の深津さんは“このミス”シリーズの優秀賞者。知人によると「デビュー作のほうが十倍面白いよ」とのことですがどうなんでしょうね。また楽しみが一つ増えました。]
『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』/ 佐藤友哉
講談社ノベルズ(2001年) ミステリー
妹が死んだ。自殺だった、と僕のイカれた家族は云うが。そして現れた男。手にはビデオ。内容は妹のレイプ中継。渡されたのはレイプ魔どもの愛娘達の克明すぎる行動表。こうされちゃあ、する事は一つ。これが自然な思考だね。そして僕は、少女達の捕獲を開始した。その果てに…、こんな馬鹿げた世界が用意されているなんて知りもせず。
やっぱりメフィスト賞の作品っていうのはクセモノだと実感。
妹が自殺。公彦の前に現れた男が見せたものは、妹がレイプされた場面。普通のミステリならば、なぜレイプされたのか、男達は何者なのか…みたいな方向へ行くのだろうが、この作品ではそうではなくて、そのレイプ犯の娘達を監禁するという復讐劇へと話が展開。そして並行して起きる突き刺しジャックによる連続殺人事件と、その現場が見える公彦の幼馴染・明日美も絡んできて…。
後味は最悪だし、ギャグ(?)もマニアック。ネタバラシもある意味では唐突で、しかも多少、ご都合主義的な感がないでもない。が、なぜか後を引く魅力があるのも確か。明らかに万人向けではないのだけれども、好きな人はとことん好きになる素養はあるのはわかる…気がする。そんな感想を持った。
ある企みがあって、それを本来なら脇役になりそうなキャラの視点で描いてあるところが、なんとも不思議な感じの小説。
妹の死因については、ある程度ミステリを読みなれている人ならすぐわかってしまうのが少々残念なところでしょうか。
しかし登場人物が総じてこわれていて、そんなキャラたちのおりなす物語は思いもよらない終着点にたどりつきます。
新しいものや、ガツンとくるものが読みたい人におすすめです。
『探偵はBarにいる』/ 東直己
ハヤカワ文庫JA(1995年) ミステリー
札幌の歓楽街ススキノで便利屋をなりわいにする「俺」は、いつものようにバーの扉をあけたが…今夜待っていたのは大学の後輩。同棲している彼女が戻ってこないという。どうせ大したことあるまいと思いながら引き受けた相談事は、いつのまにか怪しげな殺人事件に発展して…ヤクザに脅されても見栄をはり、女に騙されても愛想は忘れない。真相を求め「俺」は街を走り回る。面白さがクセになる新感覚ハードボイルド登場。
ススキノを舞台にした探偵シリーズの1冊目ですが、軽快な文章とエピソードの積み重ねが飽きさせない構成で、楽しんで読むことが出来ました。
あらを捜せば、キーになる女性を絞り込んだ方がハードボイルドな感じが増したでしょうし、明かされる解決のひねり方も過剰すぎてもう少しすっきりしたほうが文体に馴染んで、楽しめたと思います。
とはいえ、軽いユーモアと読みやすい文章、テンポの良いストーリーと値段分きっちりと楽しませてくれる良質のハードボイルドだと思います。
ススキノを中心とする便利屋を主人公<俺>としているけど、ヤクザを軽蔑するフリーのヤクザのような立ち位置は、小説とは言え浮世離れしている気がする。
本格ハードボイルドよりは、文体が柔らかめで読みやすいかも。
ハードボイルドを読みつけない人にとっては、ややクドイと感じる言い回しなどもあり、
一長一短だと思います。
ストーリーは普通に面白かったです。
『あのポプラの上が空』/ 三浦綾子
小学館(1989年) 家族小説
どの家にも、人に知られては困る恥部がある。暗部がある。が、一見さりげなく無事をよそおって人々は生きる……北の都札幌の病院長一家をひそかにむしばんでいたものは麻薬であった。覚醒剤であった。家族の葛藤と愛。青春の反抗と夢。切実なテーマに生きることの意味をさぐり、人間の絆を問う力作長編。
信頼し愛し合うべきの家族でも、心の闇を持っている。愛と憎しみに揺れる人間の心が細やかに描かれた作品で、自分と自分の家族関係も歯車が狂った時どうなるのか、考えさせられる。
美しい人間なんていない、罪のない人間なんていないんだということを実感させられました。この本の中に出てくる人は、誰しも罪を背負っています。そんな人生のやりきれなさの中で、美しく生きていくことの大切さを見つけられたら幸せだと思います。
『満月』/ 原田康子
新潮文庫(1988年) ファンタジー
仲秋の満月の夜、愛犬セタを連れて散歩に出た若い高校教師まりは、豊平川の河原で奇妙な男と出逢う。まるで時代劇から抜け出してきたような格好の男は、津軽藩士・お手廻り組、杉坂小弥太重則と名乗った。アイヌの老婆フチの魔術によって時を越えて北国の街に現われた三百年前の侍と、現代的な女教師との不思議な恋愛を描く、ちょっぴり切ない長編ロマンティック・ファンタジー。
昭和50年代の札幌が舞台。その当時は私も札幌に住んでいたので、懐かしい気持ちで読んだ。
300年の時を超えやってきた若者の目に、はたして札幌はどう映ったのか?まりやまりの祖母とのふれあいの中、小弥太はしだいに現代の生活になじんでいく。心の中では激しい葛藤や苦悩が渦巻いていただろう。妻子と別れなければならなかった寂しさもあっただろう。だが彼は、武士としての毅然とした態度を崩さない。まりは憎まれ口をききながら、そんな小弥太を温かく見守る。やがて、まりと小弥太との間に芽生える感情・・・。けれど、別れのときは刻一刻と迫る。
ふたりがどんなに努力しても、「時間」という乗り越えられない壁があるのは悲しかった。読んでいて切なかったが、ほのぼのとした温もりも感じる作品だった。
『ひつじが丘』/ 三浦綾子
講談社文庫(1980年) 恋愛小説
愛とはゆるすことだよ、相手を生かすことだよ……つらくよみがえる父母の言葉。良一への失望を胸に、奈緒実は愛することのむずかしさをかみしめる。北国の春にリラ高女を巣立った娘たちの哀歓の日々に、さまざまの愛が芽生え、破局が訪れる。真実の生きかたを真正面から見すえて感動をよぶ「愛」の物語。
人間の心は移ろいやすい・・・。
人間の過ちを仕方のないことだと受け止め、いざ過ちを犯したとき、犯した人がいるとき、それでも人を許すことができますか?という問いを全編に渡って投げかけています。
「愛することは、ゆるすこと」
主人公の人生を通じて、そのゆるすことの意味を伝えていく心揺さぶられる物語。1980年初版で2004年に60刷も納得の時代を超えた恋愛小説であり、愛することの本質に迫る本。
今までここまで「愛」について「過ち」について「ゆるすこと」について繊細に描かれた物語を読んだことがありません。
既婚、未婚、男女問わず読める恋愛小説の傑作。
主人公を含む主な登場人物それぞれの恋愛観を、 作品テーマとしながらも、当作品の根底には、実は信仰という壮大なテーマが流れている。 主人公は当初、作品最初の登場人物の京子と思われたが、いつしか視点は奈緒実中心に移っている。 主人公奈緒実を取り巻く、 同級生、教師、京子とその兄良一といったそれぞれの登場人物達の、 それぞれの恋情が、複雑に錯綜する。 セリフのひとつひとつ、行動、態度のひとつひとつの裏にある、登場人物達の心(深)情を存分に味わえる、 私が今迄読んだ小説の中の、正に最高傑作である。
『リラ冷えの街』/ 渡辺淳一
新潮文庫(1978年) 恋愛小説
人工授精という運命的で冷酷なめぐり合わせを経て、十年近い歳月の後に結ばれた有津と佐衣子。北国の街に現代の愛の虚しさを描く。
リラ冷えという言葉を世間に広めた作品だそうで、ラストがその季節である。
主人公の有津が、人工授精の精子を提供した相手と偶然出会ってからのほぼ1年間の出来事である。名前だけ知っていた相手に空港のアナウンスで気づくという書き出しにはなるほどと思った。札幌の情景も心地よく、すらすらと気楽に読めて、読後感もなかなかすっきり。
『氷紋』/ 渡辺淳一
講談社文庫(1972年) 長編ロマン
S大学医学部助教授・諸岡敬之の妻、有己子には夫の同期・久坂利輔との間に秘密があった。なぜか彼に惹かれ、入籍直前に関係を持ったのである。あれから七年。久坂と邂逅したがために、有己子の秘めた愛に再び火がついた――。許されざる愛に落ちる妻の姿を研ぎ澄まされた筆致で描く、渡辺淳一文学初期の傑作長編ロマン。
残酷なほど人間の苦しさ、醜さを描いています。分かり合えない男性と女性の心理、生き方を描いています。夫の行動には吐き気さえ催します。妻に対する行き過ぎの犯罪行為以外にも出世欲に満ちた俗物ではありますが、一方でそういった醜い行動に駆り立てた妻の身勝手さもあり、愛されない夫の不幸もよくわかります。読後感は決して良いものではありませんが、「失楽園」「愛の流刑地」のような渡辺淳一の後期作品にみられる性がテーマではなく、人の生き方に真摯に言及している、重苦しい読後感ながら優れた作品だと思います。
『失楽園』や『愛の流刑血』などが話題になるわりには、この本は知らない人も多いのでは?女心が憎いほど巧みに書かれている。いつだったか渡辺淳一が、しょせん女心は男には書けないので、男心を書くように途中から転向したというようなことを書いていたが。女心をここまでかける男性作家は少ないのではないだろうか。何度読み返しても、いい。
『石狩平野』/ 船山薫
河出書房(1967年) 大河小説
この作品は、吉永小百合主演の映画「北の零年」のベースになった(公式には映画の原作とされてない)もので、明治初期に開拓移民として北海道に渡った鶴代という女の子が、親子3人で貧しく過酷な生活を送り、助け合い、時には冷たくもされ、結婚そして子供も生まれ、時代的には明治末期の伊藤博文暗殺までを描いています。
貧しい一家の娘から4世代にわたる物語。
出版年は1967年(?)と古いけれど、これは面白かった。北海道開拓民時代から東京大空襲までを綴った一大長編です。
ちっちゃい文字でびっしりと上下巻に書いてあります。
今の文庫本の文字サイズだと4巻ぐらいになっちゃいそうです。本当に泣けます。この本を読むことができて幸せです。
かくれた名作とはこの本のことを言うのじゃないかと思います。
スタジオ・ジブリはこういう名作を取り上げるべきなんじゃないかと思ったりしました。
海外ものはハリーポッターに任せておけばいいじゃん。北海道に住んでいたことがある私は札幌市各地の地名や歴史に触れることが出来て良かったです。
北海道開拓史の黎明期から日本が近代化へと向かった時代に生きた開拓農民の娘(主人公少女)の苦難と成長と、その「時代背景」の変容とが物語としてあるが、続・石狩平野と併せ読め日本国の近代史の側面も理解することも、現状も認識得られると思う。歴史認識で隣国から「とやかく」云われてることもある面、納得できる感もあり。
「石狩平野・続石狩平野」は「トルストイの戦争と平和」をも凌駕する大小説であると確信をもって私は云える。
現在の若い人たちに是非ともお勧めしたい本である。かく申す小生は1936年生まれの軍国少年であったが、軍国主義の理不尽かつ悲惨な結末は思い知らされている。・・・東京大空襲も経験している・・・
札幌が舞台の小説を探していたら、おもしろそうなものから深くて心が動きそうなものまで色々ありました。
せっかく札幌に住んでいるなら、一読の価値はあるんじゃないかと思います。
この記事が小説や札幌をより好きになるキッカケになればうれしいです。
こちらで札幌市が舞台の映画も紹介しているので、映画好きな人は見てみてください!
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